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社債による資金調達

はじめに
社債(debt securities)とは、「会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって…償還されるもの」(会社法2条23号)と定義されています。すなわち、会社が広く行う借金です。特定の第三者(金融機関など)に対して行う場合や、広く不特定多数人に対して行う場合もあります。長期間の借金と考えればイメージが掴めると思います。少ない額を多数人から広く調達できることが特徴といえます。資金調達を行う1つの手段として用いられます。借金であることから、満期において全額償還(返済)する必要があります。社債は、貸借対照表(バランスシート)においては、負債に位置付けられます。

▼ 社債の種類 ▼ 株式との違い ▼ 信用保証制度の活用 ▼ 新株予約権付社債の活用
▼ 社債の発行手続き  ▼ 社債のメリット・デメリット(例示列挙) ▼ 結びにかえて

社債の種類

社債と言っても色々な種類があります。社債と言えば、普通社債(Straight Bond)や新株予約権が附された社債(新株予約権付社債・Convertible Bond)が一般的です。何らかの株式との関係性を持つ社債として、エクイティリンク債と呼ばれる社債もあります。エクイティリンク債とは、新株予約権と社債を分離して処分することができる社債です。新株予約権と社債を同時に割当ることになります。エクイティリンク債は、さらに細かい設定により分類することが可能となります。一例として、交換社債・他社株転換社などがあります。新株予約権付社債は、新株予約権と社債を分離することができません。

通常の社債よりも債務弁済の順位が後回しとなる劣後債(Subordinated Bond)。さらに債務の弁済が後回しとなる(償還されない)永久債などもあります。資産流動化法の適用を受ける特別目的会社が発行する特定社債もあります。

また、担保付社債信託法の適用を受ける社債もあります。担保が附された社債は、担保付社債(secured debt securities)と呼ばれます。担保にも一般担保付と物上担保付があります。一般担保付社債は、発行会社の全財産を担保とします。例として、電力債やJR債があります。物上担保付社債は、発行会社の物的財産(土地・建物・工場など)を担保とします。担保が附されていない無担保社債もあります。通常発行される社債の多くは、無担保社債であることが殆どです。
社債の種類などをまとめると下記の図のようになります。

株式との違い

社債と株式は似ている点もありますが、違いもあります。

株式の場合は、分配可能額が存在します。すなわち、余ったお金を配当として分配することになります。分配可能なお金が無ければ当然に配当はありません。無配当はあり得る状況です。社債は、会社に分配可能なお金が有無に関わらず利息の支払い、償還(借金の返済)がなされます。会社が存続している限りは、支払いをしなければなりません。
株式には、会社の経営に参加する権利があります。社債にはこのような経営に参加する権利はありません。
株式においては、株主総会が意思決定機関です。会社における最高意思決定機関であり会社の方向性を決定します。社債においては、社債権者集会です。会社に対して要求することはできます。ただし、裁判所の認可がなければ効力が認められません。

  普通株式 社債
配当(利息)の分配 分配可能額の範囲(無配当有り) 必ず支払われる
経営参加 株主提案権利・議決権 なし
意思決定機関 株主総会 社債権者集会

信用保証制度の活用

中堅企業・ベンチャー企業においては、社債(プロ私募債)を発行する場合でも、信用(倒産リスク)の観点から金融機関から調達するのは現実として厳しい側面があります。そこで、信用保証協会が保証をしてくれることにより、金融機関から調達することが可能となります。ここでの保証とは、万が一倒産などした場合に、債権者に対して、保証協会が代位弁済してくれることです。すなわち、信用保証協会の保証が担保としての役割を担います。
信用保証協会が直接融資をしてくれるわけでなく、担保となってくれることになります。この信用保証協会の保証があれば、金融機関は社債を引受けてくれます。全体像として次のようになります。金融機関を介して資金調達を行う場合には、最適です。社債を発行することから通常の借入とは異なります。銀行自体が保証してくれる場合もあり。

■注意点
全ての中小企業が利用できるわけではありません。法律による定義あり。
利用できる最低限度額があります。
縁故債には利用できません。
使途が限定されます。
信用保証協会に対する保証料(手数料)が発生します。0.45〜1.9%

信用保証制度の詳細ついてはお問合せください。メールフォームはコチラ
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新株予約権付社債の活用

中堅企業・ベンチャー企業においては、普通社債を発行するよりは、新株予約権が附された社債である新株予約権付社債(Convertible Bond)を発行して資金調達を行う場合が多くあります。新株予約権付社債は、社債としての性格を有しながら、株式としての性格も有しています。社債である間は、借金であるから利息を支払い満期となれば償還(全額弁済)する必要があります。新株予約権を行使した場合は、株式となるので、利息の支払い満期での償還(全額弁済)の必要がありません。新株を引き受けると社債は消滅します(転換社債型新株予約権付社債の場合)。社債の払込み価格を権利行使価格に設定します。新株予約権を行使させることができると負債から資産に変化します。

新株予約権付社債は、既存の株主に対して無償で割当を行うことができます(会社法278条1項2号、2項)。活用方法としては、融通が効きます。取得条項などの条件を附して、取得の対価として、別の新株予約権付社債を交付するなど、リファイナンス(refinance)などを行うことも可能と解されます。

さらに、転換価格(新株を引き受ける時の価格)について修正することができる条件が付いた新株予約権付社債もあります。いわゆる転換価格修正条項付転換社債型新株予約権付社債・下方修正条項付転換社債型新株予約権付社債(Moving Strike Convertible Bond・MSCB)と呼ばれています。このような修正条項・下方修正条項が付された場合は、多くの場合10%低い価格で転換することができる条件となっています。

例えば、1株について400円の会社があったとして、このMSCBが発行された場合は、転換価格は、360円に設定されます。すなわち、40円は利益が出る仕組みになっています。株式に転換すると360円の株式が手に入ります。売却すると株価と転換価格の差額が利益となります。逆に株価が350円に下落した場合に360円で転換できても損が発生します。このような下落した場合に備えて、常に株価から10%ディスカウントされた価格において転換することができる条件(修正条項・下方修正条項)が付されます。360円に下落した場合は、324円において転換できます。

このような常に10%の利益が確保されている(下落のリスク回避)ので、他の株主との関係で問題となる指摘もあります。

社債の発行手続き

社債を発行する場合には、一定の事項について定める必要があります(会社法676条)。社債発行の手続きは、新株発行の手続きと類似しています。取締役会設置会社においては、取締役会の決定が必要です(会社法362条4項5号)。取締役会を設置していない会社においては、取締役の過半数により決定します(会社法348条2項)。 新株予約権付社債は、社債に関する規定が適用されません(会社法248条)。新株予約権の発行手続きがそのまま適用されるので注意が必要です。

社債のメリット・デメリット(例示列挙)

長期的な視野での資金調達
金融機関などからの短期融資となれば、必然的に金利が高くなります。社債では、償還期間は長期に設定することができ、利息のみを支払えば足ります。利息も会社が設定することが出来るので、金融機関の金利より安いと言えます。実際、金利の負担が少ないことは会社にとって有利と言えます。
経営に干渉されない
株式と異なり、社債には経営に参加する権利が無いことから、アクティビストがいません。通常は、「お金を出すが、口も出す」が一般的です。社債は、「お金を出すが、口は出さない」となります。社債権者の意向を考慮することなく経営方針を決定することが可能です。
自由な設計
社債は、取締役会の決定において発行が可能です。調達した資金について用途は限定されていません。将来の成長戦略、借入金の返済など自由に使用することが可能です。
発行・管理事務作業の負担
社債の発行には、法律で定めなければならない事項が決まっています。これに伴う事務作業・手続きも多くなります。法定の要件を欠いている場合には、無効となる可能性もあります。さらに社債原簿を作成する必要もあり、細かな法定作業を行う必要があります。
管理人の設置
社債を発行した場合には、社債管理者を置く必要があります(例外あり)。管理コストが発生することになります。
償還(弁済)する必要がある。
社債は、借金なので、満期に全額弁済する必要があります。事前に弁済資金を確保する必要が生じます。調達資金を活用しつつ、弁済のための積立も行う必要があります。
倒産した場合の信用失墜
社債発行会社が倒産した場合は、全額償還されません。社債権者に対して大きな損害を生じさせてしまいます。しっかりとした経営のかじ取りを行う必要があります。

結びにかえて

株式発行・社債の発行には、それぞれメリット・デメリットの両方があります。会社の状況に応じて両者を使い分けることが戦略的な資金調達を行う上で不可欠であると考えられます。また、社債に「おまけ」を付することもできます(転換社債型新株予約権付社債、いわゆるMSCB)。社債と言っても内容は多種多様です。資金を調達する目的・その後のビジョンを考慮しながら用いる種類の社債が選択できます。信用協会の保証、銀行などの金融機関の保証を附すなどのバリエーションも考えられます。

 富山綜合法務事務所は、戦略的ファイナンス・資金調達分野を得意としています。社債以外にも新株発行や種類株式を用いた資金調達、資産の価値に着目した資金調達(アセットファイナンス)などを得意としています。銀行からの融資(借入)にのみ頼る時代は終わりです。会社側が積極的に攻めの手法を用いるべきです。縁故債・私募債など個々の事情にマッチした最良の資金調達方法を提供致します。