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少数私募債(縁故債)について

はじめに
少数私募債(縁故債)とは、少人数(縁故者)に対して社債(債権)を発行することにより必要な資金調達を行う方法です。出資者から直接的に資金を調達する直接金融の一例です。

一般的に企業が運転資金・事業資金を調達する手法として、直接金融(Direct Finance)と間接金融(Indirect Finance)があります。直接金融とは、まさに直接資金を調達する方法です。出資しようとする者から直接資金を融通してもらう方法です。株式・社債などを発行して市場などから直接的に資金を調達する方法があります。

間接金融とは、出資しようとする者から直接融通してもらうのではなく、銀行やノンバンクなどの金融機関を通じて調達する方法です。間接金融の場合は、金融機関が不特定多数人(預金者)から集めた資金を企業などに融資(融通)しています。金融機関という間接的な窓口を通じて必要な資金を調達することになります。

上場企業においては、証券市場で株式を発行することにより容易に多額の資金調達を行うことが可能です。これに対して、非上場企業(一般的なオーナー型企業・中小企業)においては、株式に流通性が無く(換金性が低い)、証券市場において資金を調達することができません。

このような事情から、オーナー型企業(法律上の中小企業)においては、金融機関などからの融資(間接金融・Indirect Finance)に頼らざるを得ません。もっとも金融機関としては、相当の担保が無ければ資金融通をしてくれることはありません。場合によっては、オーナー社長の個人資産についても担保を要求します。

本来、会社の資産と社長の個人資産は別個のモノです。だた、融資(資金調達)を受けるためには、社長の個人的保証が要求されることが一般的です。昨今の情勢では、なかなか融資を得ることが厳しくなっています。今までのように、金融機関からの融資(間接金融・資金調達)だけに限定せず、他の方法による資金調達の必要性が高まっています。

オーナー型企業(法律上の中小企業)において、株式以外の直接金融を可能とするのが、少数私募債(縁故債)です。私募債は会社の発行する債権(借金)であり、資金を融通してくれる方に直接社債を買ってもらうことにより資金を調達することができます。通常の社債の発行手続きと異なり届出が不要などの簡略化が認められています。

▼ 少数私募債発行条件 ▼ 少数私募債の発行メリット(抜粋) ▼ 結びにかえて

少数私募債発行条件

少数私募債を発行するには、次のような守るべきルールがあります。少数私募債については、限られた方々に・限定された額を発行するので、金融商品取引法に定められた幾つかの手続きが免除されています。


多数者に対して発行する場合は、「有価証券の募集」となります(金融商品取引法2条3項)。ここでの「多数者」とは、50人以上と規定されています(金融商品取引法施行令1条の5)。すなわち、50人以上に対して社債を発行する場合には、金融商品取引法の規定する「有価証券の募集」に該当することになり、債権者(社債引受者)を保護するための書類(有価証券報告書など)を提出する必要・財務局への届出を行う必要があります。

50人未満であれば、「有価証券の募集」に該当しないので、債権者(社債引受者)を保護する手続きが不要となり、迅速な手続きにおいて発行することが可能となります。すなわち、金融商品取引法が要求している書類の提出・財務局に対する届出などが免除されます。50人未満に発行することがポイントです。金融機関などが引受人となる場合は含まれません。

「縁故者」とは、募集する会社にとって一定の繋がりのある方を指します。取引先や会社の社員など会社と何らの関係がある方です。具体的には、次の方が該当すると解されます。

社長及びその親族
株主及びその親族
自社役員、従業員及びその親族
社長の友人、知人
得意取引先、仕入先企業及びその会社の社長
会社の顧問


社債を発行する場合は、社債管理者を選任する必要があります(会社法702条)。この社債管理者は銀行や信託会社でなければなりません(会社法703条)。もっとも社債権者(社債引受人)の保護に欠けるおそれがないとして法務省令で定める場合は、社債管理者は不要です(会社法702条但書)。法務省令では、社債の総額を社債の金額の最低額で除した額が50を下回るとしています(会社法施行規則169条)。

例えば、総額5,000万円の社債を発行する場合に1口の最低額を50万円とすると、5,000÷50=100となります。これでは、法務省令で定めた「50」を下回っていません。1口の最低額を120万円とすると、5,000÷120=41.66となります。この場合は、法務省令で定めた「50」を下回っています。よって120万円での発行は可能です。


一定の関係がある者(縁故者)に対して発行することから、煩雑な手続きを免除しているのに、多数人に対して譲渡されると社債権者を保護する必要が発生します。もっとも一括譲渡であれば、多数人に譲渡される危険性はないので、この場合については譲渡を認めています。また、譲渡については取締役会の承認が必要です。

少数私募債の発行メリット(抜粋)

取締役会において自由に設定できる(償還期間・利息)
株式と異なり経営に口出しをされない。
買収の危険がない。
担保や保証人が不要。
株式の対価としても交付可能。
金融機関の融資審査がない。
金融機関に対する手数料の支払い義務がない。
金融機関の利息より低く抑えられる。
貸し渋りなどの恐れがない。
個々の事情に合わせて必要な額だけを集められる。
資金使途が限定されず自己資本のように自由に利用できる。
期日一括償還のため償還期日までは資金の流出が抑えられる。
長期の視点に基づいた経営戦略をたてられる
社債引受者に支払う利息は損金扱いとなる。
社債の発行は会社の信用力を高められる。
社債引受者も預金より有利な利回りで資産運用ができる。
社長・役員から会社への個人貸付を社債に切り替えることで利子収入に対する減税効果がある。
地方公共団体から支援を受けられる場合がある。
通常の社債発行より手数料・管理費用を抑えることが可能となる。
金融商品取引法が定める書類の提出義務が無い。

結びにかえて

金融機関などからの融資に比べると自由度合いは多いと思われます。長期の視野に立った経営遂行が可能ともなります。もっとも社債は広い意味の借金です。償還日には全額を返済しなければなりません。毎年利息も支払う必要があります。日頃から、償還を見据えて自己資金を調整する必要があります。倒産・貸し倒れ(償還不能)となれば、社債権者(社債引受人)に迷惑を掛けることになります。特に少数私募債は、一定の関係者(縁故者)から資金を調達しているので、償還不能となった場合のリスク(ダメージ)は計りしれません。

このようなリスクもあることを十分に認識した上で、導入する必要があります。また、金融商品取引法の規定にも十分に留意する必要があります。一般的な社債よりも導入コスト・書類提出義務手続きが簡略化されているので、中堅企業にとっては使い勝手が良いと思われます。金融機関の融資(間接金融)に代わる新しい資金調達の方法として今後注目される手法といえます。

中堅企業における資金調達の方法は多様化しています。新株を発行することによる方法や少数私募債を用いる方法。両者を組み合わせる方法などが考えられます。個々の事情に応じたベストな方法を選択することが、さらなる事業発展・拡大となります。