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倒産隔離

倒産隔離(Bankruptcy Remoteness)とは

倒産隔離とは、証券化を行う場合に資産の所有権者とSPCそれぞれの倒産リスクを回避することです。証券化(securitization)を行う場合には、必ず考慮する必要がある問題です。証券化を行う場合、一般的には、資産の所有権者(Originatorオリジネーター)が証券化を行うためだけに設立された会社(SPC・Special Purpose Company特別目的会社)に資産を売却します。この売却された資産を担保にして多数の投資家に証券(ABS証券など、いわゆるハイブリッド証券)を売却することになります。投資家は、資産の信用力・収益力に着目して投資します。

ここで考慮しなければならないのは、@資産を所有している者が倒産した場合に、SPCが影響を受けないようにすること、ASPC自体が倒産しないようにすることです。この倒産隔離は、証券化を行う場合にもっとも注意しなければならないポイントです。この倒産隔離は、証券化において最重要な問題であり、根幹をなすものです。

すなわち、資産の所持している者が倒産した場合、債権者としては、保有している資産を差押さえ・売却して債権を回収するのが常です。このような場合に、証券化された資産が差し押さえられると投資家には多大な損害が発生します。また、SPC自体が倒産すると投資家に損害が発生することになります。

そこで、証券化を行う資産をオリジネーターの財産からしっかり分離して、仮に倒産した場合でも債権者から資産の差押えが行われないようにする必要があります。このように証券化の目的資産を分離すれば、倒産しても財産はしっかり保護される(差押えされない)ので、投資家には損害が発生することはありません。アセットファイナンスのスキームについては必須です。

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▼ 資産の分離における問題点 ▼ SPC自体の倒産隔離における問題点 ▼ 結びにかえて

資産の分離における問題点

倒産隔離を行う場合に、いくつかの問題点があります。倒産隔離は証券化において最重要な問題であり、十分に注意しなければならない点でもあります。もっとも完全に倒錯隔離を行うことはできません。特に考慮するポイントを幾つか挙げてみます。


資産の所有権者が倒産した場合、SPCへの資産譲渡が法的に適正・有効に行われたか否かが問題となります。ここで適正な譲渡では無いと判断される(倒産隔離の不完全)と証券化の対象となっている資産は資産の所有権者の債権者に差押えられてしまいます。適正な譲渡であるか否かの判断ポイントはいくつかの点から総合的に判断されます

譲渡価格
 

 SPCへの資産譲渡が適正な価格で行われたか否かがポイントになります。ここでの適正な価格とは、高額すぎない・安すぎないことです。資産にはある程度の客観的な評価をするための指標があります。証券化がよく行われる不動産については、不動産鑑定評価額を基準にされることが一般的です。この不動産評価額よりかけ離れた額でSPCに譲渡されると適正な譲渡とはいえなくなります。

取引形態(契約内容)
 

実際の取引形態も問題となります。契約内容として譲渡担保が設定されていたり、買戻特約が設定されているなどの形式的な所有権の移転では適正な譲渡とはいえなくなります。このような形式的な所有権の移転では、資産の所有権者の実質的な支配・関与の可能性が認められます。倒産した場合は、債権者がこの点に着目して、差押えを行うことが十分に可能となります。契約書において適正な譲渡であることを裏付ける必要があります。特に対抗要件(不動産の場合は登記・民法177条)の具備は必須です。債権の場合は、債権譲渡に関する特例法があります。


SPCに対する譲渡が資産の所有権者の債権者を害する行為となるか否かは重要な問題です。いわゆる否認リスクです
。詐害行為取消権が認められたり、否認が認められると債権者は、証券化の対象資産を差押えることが可能となります。詐害行為が認められるためには、主観的・客観的に債権者を害する意思が必要になります。この点からも譲渡価格・取引実態には注意が必要です。特に債務超過の場合に証券化を行う場合には、これらの詐害行為取消権・否認権が認められる可能性が高いです。財務内容についてしっかり精査しておく必要があります。


資産の所有権者とSPCは別の法人格を有する存在です。もっともSPCに資産の所有権者が役員として参加したり、所有権者がSPCを設立したりなど、関与が認められる場合には、SPCは独立の法人ではなく資産の所有者と実質的な同一であると判断される危険性があります。法人格否認の法理と呼ばれます。同一と看做されると債権者は、SPCが保有している資産を差押えします。このように実質的に同一であると看做されないようにするために、SPCには資産の所有者を関与させないなど設立に関して注意を払うことが肝要です。一般的には、ケイマン諸島の慈善信託(Charitable Trustチャリタブル・トラスト)を利用し、受益権は慈善団体が保有させるなどの方法が用いられます。この慈善信託を用いる場合は、慈善団体にSPCの議決権を行使させないように契約条項を盛り込みます。

証券化の対象資産について、所有者が引続き使用したい場合は、実質的に支配していないことを明確にするために資産の所有者とSPCの間で賃貸借契約を締結するなどの方法(Sale & Lease Back セールリースバック)が用いられます。SPCに外部の取締役などを入れる方法もあります。資産から生じる利益などを回収するためにサービサー(債権回収会社)を関与させるなどの手法もよく用いられます。サービサーが破綻する危険性もあります(Commingling Risk コミングリング リスク)。サービサーの破綻に備えて、バックアップサービサーを用意する場合もあります。

SPC自体の倒産隔離における問題点

SPC自体が倒産すると資産が生み出す利益を得ることが出来なくなり投資家に損害が発生します。そこで、SPC自体が倒産しないようにするための手当てが必要となります。具体的な方法としては次の2つが考えられます。@SPC自体が債務超過にならないようにする、A倒産手続きを行わせないようにする。すなわち、SPC自体が債務超過とならなければ、倒産することはありません。また、倒産原因が生じても倒産を申立てられなければ、倒産することはありません。


債務超過に陥らないようにするためには、不測の事態に備えて一定の留保金を準備することが考えられます。また、資産の保有以外の事業を行わないことにすれば、債務超過を防ぐことが可能となります。さらに、SPCが資金調達を行うなどの場合には、取引を行う相手方に、責任財産をSPCが保有している資産に限定する責任財産限定特約(ノンリコースローン・非遡及型融資)を附することで、資産の価値以上の債務を負うことはありません。もっとも責任財産限定特約(ノンリコースローン)を用いると金利が上乗されることになります。


SPCに倒産原因が生じても倒産手続きを申立てられなければ倒産することはありません。倒産の申立が無ければ、裁判所などが勝手に倒産手続きを行うことはできません。方法としては、申立権を有する取締役や債権者に対して、倒産手続き不申立特約を附することが一般的です。

結びにかえて

証券化においては、倒産隔離はとても重要な問題です。この倒産隔離がしっかりなされていないと、投資家はだれも投資してくれません。証券化の根幹をなす問題です。倒産隔離のためにいくつものスキームを用意する必要があります。1つの方法がダメでも次の方法があれば、倒産は回避できます。もっとも100%隔離することは不可能です。リスクを回避するために幾重にも手当てすることが肝要です。しっかりとしたスキームの法的監査(デューデリジェンス)は必須といえます。